究極のシンプルとは何か? The Secret of Simplicity


現在、東京の松屋銀座で開催中のディック・ブルーノ展。
「シンプルの正体」というなんともそそるネーミング。実際、とても興味深い展示だった。
●シンプルって何だろう?
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形と色を限定することによって、シンプルさというのは引き立つ。
シンプルであろうとすればするほど、本質が浮き彫りになる。だが、引き算をしすぎると、逆にそっけない印象を与えかねない。
ブルーノはそこで、感情をエッセンスとして加え、足し算をしている。つまり、作品を見る人の想像力を膨らませ、味わい豊かな世界を演出しているのだ。
色 × 線 × 形 で。

●知らせる色
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ブルーノの絵本は、6つの決められた色しか使っていないのをご存知だろうか。
限られた色に感情を置き換えて表現することによって、読者はより豊かにイメージを思い描けるような意図を持って、そうしていたとのこと。
また、隣り合う色の関係性からも感情を伝えられる。
●空間をつくる線
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線一本で、人間性というのは、滲み出てしまうもの。
ブルーノの線はゆっくりと筆で点を重ねるように描かれている。展示会場には、実際に彼が描く姿の映像が流れているのだが、ゆっくりと手を動かし、まさに点を連ねているかのように、線を創り出している。
●空想を生み出す形
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丸と三角と四角。
この三つの形を基本としてブルーノの絵本は構成されている。
それは、空想を巡らせやすいように、モチーフをできるだけ簡略化したい、という意図があってこそのなせる技。モチーフが決まると、繰り返し対象をみて正確なスケッチを取っていた。時には100枚以上のスケッチを描いていたというエピソードから、いかに対象を捉え、それをギリギリまで削ぎ落とす努力をしていたのか、が伺われる。
●全ては想像力のために
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シンプルであることの目標は、想像力をかきたてるためにある。
余分なものが付着すればするほど、頭を邪魔するのは、もので沢山溢れている汚い部屋と整理されたミニマムな空間を比較することでも理解できる。
同じように私たちの頭の中にも、気がつけばつねにごちゃごちゃと雑念が潜んでいる。
だからこそ、ブルーノの絵本は、世界中の人々を虜にさせたのかもしれない。本当に必要なものは、本当にごく限られているということを、彼は絵本を通して、私たちに投げかけていたのかもしれない。
●一言編集後記
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『クマくんが死んだ』という、彼の死後に出版された絵本の展示があった。2011年に制作されていたのだが、本人が死後に出版されるのがふさわしい、という思いのもと、出版が見送られた。今年の2月に逝去したことで、世界中の書店とブルーナの活動に貢献した関係者に刊行された、一読の価値ある、名作です。
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2017.5.2 Tuesday(*KAYO-BI)
Kayo Nomura
*KAYO-BI:毎週火曜日に更新しています。

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