壁画制作を通して実感した「命」の使い方について On Thoughts about Mural Painting


私たち人間一人ひとり、得意だと思うものと不得意だと感じるものがある。
ある人は、人前で歌うのが好きだし、ある人は文章を綴るのを得意とする。
逆に言語化能力に乏しいと思っている人もいれば、
人前に出ると恐怖で膝が笑う人もいるだろう。
同じように、同じ分野の中でも得意・不得意というものがある。
例えば人前で話す仕事をしている中でも、30名程度に向かって話すのを心地よく感じ、
100人規模になると逃げ出したくなる、という人もいる。
教える職業をしている人であれば、小学生相手は得意だけども、大人には教えるのが下手という人も。

●「できない」という名の思い込み
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私も例に漏れず、絵のジャンルによって、得意なものと苦手なものがある。
それは作品を描くサイズのこと。
テーブルの上に載せて全体を俯瞰できる程度の大きさの作品だったらスラスラ描けるのだが、
イーゼルを使わないといけないぐらいの大きさの作品になると、途端に手が止まり、
白い紙に吸い込まれてしまいそうになってしまう。
要は、大きな作品が嫌いなのだ。
(というか嫌いだと思い込んでいるのだ。)
ところが、先日とある新しい試みをやることになった。
5メートル x 2メートルの壁に絵を描くという試みだ。
ただでさえ、今まで描いたことのない規模の大きさで描くことに対して
不安があったのだが、それ以外にも懸念点が2つあった。
それは、
壁があらかじめ黄色く塗られているため、
普段の私の色使いはできない、ということ と
いつも使っている水彩絵の具やインクで描くことができない、
ということだ。
●それでも、やる理由
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慣れない画材で、普段とは違う色使いで、
これまで描いたことのない規模の大きな作品を描く、
ということで、私は、当然のように怯んでいた。
正確にいうと怯むというよりも、
どうすればいいのか、文字通りわからない、
という戸惑いが大きかった。
しかも、壁にペンキで描くということは、
消すこともできないため、やり直しがきかない。
「そんなにリスクのあることなら、やらなきゃいいのに」と
ここまで読んでいて思われたかもしれない。
私も正直何度もそう思った笑。
それでもその依頼を引き受けた理由は簡単だ。
「やってみなきゃわからない」と思ったからだ。
●かすかな思いを頼りに。
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例えば依頼が、
「絵を描きながらダンスをして」だとしたら
考える間も無く断っていた。
ダンスは私の専門とするところではないからだ。
でも、単純に大きな絵を壁に描くということは、
まだやってみたことがないだけで、
「もしかしたらやればできるかもしれない」と
かすかな思いもあったのだ。
そのかすかな思いを頼りに、
やらない選択をするのではなく、
やる選択をとった。
その結果、待っていたのは「やってよかった」という感覚。
何がよかったって、
大きな壁にペンキで気の赴くままに描くということがいかに気持ち良いことなのか、
楽しいことなのか、実感できたからだ。
一旦描き出してしまえば、自分の世界に没頭できた。
「次はこの線を描いて、リズムを作って、あそこでドバッと塗りたくって、、」と思いながら、
背伸びしたりかがんだり、身体全体が手になったような感覚で描くことの面白さを実感できた。
● 選択の問題
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たかが絵を壁に描くぐらいのことで
大げさに聞こえるかもしれないけども
この経験を通して、
「この命を何に使っていきたいのか?」
について改めて考えさせられた。
「今の自分」を守るために、挑戦をしない人生か
それとも
うまくいくかどうかわからないけれども、挑戦していく人生を選ぶか。
どちちも選択の問題でしかない。
ただ、私は、やっぱり、
今までと同じことを繰り返し、ぬくぬくした世界の中に停滞していることよりも
少し背伸びしながら、未知なる分野へ可能性を広げていくことに意識を向けていきたい。
そして、
これを機により大きな作品を描いていきたい
そう実感している。
●一言編集後記
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出来上がったクジラの作品は、
中に小さなクジラがいたり、花みたいな魚がいたり、
ペンギンみたいな鳥が飛んでいたり、
独立つしつつも調和した世界を醸し出している。
それは描いた場所、シェアオフィスEditory神保町の空間を意識してのこと。
Editory = Territory(領域)をEdit(編集)する、
つまり、お互いの領域が重なり合い、自分の領域を編集するという名のコンセプト。
打ち合わせに来られる方やイベントスペースとして使われる方にとって
新しい発想や、型にはまらない企画がでるような触媒となればいいな、という願いを込めて描いた。
のびのび楽しく描かせていただいた、スタッフの皆様にこの場を借りてお礼申し上げたい。
企画をしてくれたみきえちゃん、サポートをしてくださった横尾さん、ありがとうございました!
http://test.luckweb.jp/kayonomura/news/

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