October 2021
Matsuzakaya Nagoya, Aichi, Japan
松坂屋名古屋店
10月16日に松坂屋名古屋店にて、410周年企画の一環として、ピアノの演奏に合わせてライブペインティングを行いました。
心躍る、とっても充実した時間でした。
改めてお越しくださった皆様、気にかけてくださった皆様、心より御礼申し上げます。
少しでもアートを身近に感じられる時間になったとしたら嬉しいです。
ここからは、終わってみて思うことを思うがままに。
まず、今回のライブペインティングは正真正銘の「ライブ」だったなぁと。というのも、ピアノの演奏に合わせて描くことは決まっていたのですが、どんな曲をどの方が演奏するか、は当日その場になるまでわからない、という企画だったからです。410周年の企画の一環として、「マツカドピアノ」を通して一般の方がどなたでも演奏ができる取り組みがあり、そのピアノの前で私は一枚の大きな絵を描かせていただくという内容でした。蓋を開けてみたら、古典的な名曲と呼ばれるものから90年代ポップの曲まであり、演奏された方も小学生の方も、と実に多様な演奏でした。
音楽からインスピレーションを感じながら描く場面もあれば、演奏されている方のエネルギーそのものを感じ入りながら描く時間、演奏と演奏の間の観客の皆様の話し声や店内のアナウンスから感じ取るものも、このような百貨店ならではでした。
序盤はとても緊張し、少し手が震えていたように記憶しています。それが、途中からそれに変わって至福感を抱きながら描いていました。こうやって好きに自由に描ける場があって、生演奏を肌で感じながら、いろんな方に見守られながら、描けるって最高に幸せじゃないか、と。
今回は、これまでのライブペインティングとは異なり、色とりどりの作品にしよう、と決めて臨みました(それまでのライブペインティングは、どれもモノトーンもしくはメインカラーを決めて描いてました。それは単純に選ぶ色が多いと迷い出すかもしれない、という怖さがあったから)。
新たな挑戦として、色のブロックを外して描けてよかった、と実感しています。
話がそれますが、昨日名古屋から帰宅後、読んだ夕刊に『まっくろ』という絵本の刊行記念対談が掲載されていました。
そこに「わからないものを面白がるのが、難しい時代になっているかもしれません。何かを調べることが癖になっていて、予想外のものとの出会いが減っている気もします。でもそれは、すごくつまらないんじゃないか。自分がどんなものと出会うのかと、ドキドキしながら楽しむ力って大事だな。」というくだりがありました。
さらにその対談はこう続きます「感動できる能力とでもいうか。一つの枠を決めて、そこに入ってきた物だけに感動できるようにじゃだめなんだよ。自分の入れ物なんて、狭苦しいものだから。」と。(10月16日朝日新聞夕刊より抜粋)
これはまさにライブの面白さについて体現している内容じゃないかと思ったのです。
つまり、もし、あらじめこういう音楽を奏でます、こういう絵を描きます、と決めていたとしたら。より完成度の高い作品が生まれるかもしれないけども、予定調和で何も面白くない。そしてそのエネルギーは必ずや観客側にも伝播する。
「何が出てくるのかわからない」ということこそがライブの醍醐味であり、それが人の心を動かすのではないか、と。
冒頭の指の震えに気づいた人がいたかどうかはわからない。でも、もし気づいた人がいたとしたら、それさえも、隠すものではなく、ただ、見せていくもの。あの緊張は本当にそこにあったものだから。また、最後の方が演奏したZARDの名曲「負けないで」が流れてきた時、思わず歌詞を口ずさみながら描いていた自分もいた。アメリカで日本人学校に通っていた頃、運動会のテーマ曲がそれだった。一瞬脳内が運動会で走っている自分になった。マスクに隠れて見えなかったかもしれないけど、私は確かに笑っていた。
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これからも、私はライブペインティングに挑戦し続けたいと思っています。
「今」を大事にする。
「ここ」に集中する。
五感全てを使って。
目に見えないものを感じ取って。
主催:松坂屋名古屋
ディレクション:野中さつき
撮影:村松裕哉